M&Aは“会社を手放す”ことではない──スタートアップ経営者のための、新しいイグジット戦略とBeyondgeの伴走支援

「M&Aイグジットという選択肢」──起業家たちの新たな決断
かつて、M&Aはスタートアップ経営者にとって「IPOを断念した次善の策」と見なされることが少なくありませんでした。しかし今、M&Aはその立ち位置を大きく変えつつあります。
市場環境の変化によってIPOのハードルが上がる中、確実な成長を志向するための戦略的選択としてM&Aを捉える経営者が増えています。
スタートアップに対する大企業の期待は「買収=取り込み」ではなく、「自社の事業や技術との相乗効果を生む共同パートナー」へと進化しています。
そして、創業者が適切なタイミングでキャピタルゲインを得ながら、なおも“経営者”として事業に関わり続けるM&Aのスキームも一般化しつつあります。
このような変化の中で、「M&A=事業の終わり」ではなく「成長の再設計」として、M&Aを積極的に活用するスタートアップが増えてきました。
実際、近年では以下のような事例が注目を集めています。
ペ イパル×Paidy:世界的大企業による日本の金融ベンチャーに対する圧倒的高値での買収
KDDI × ソラコム:一度グループインした後に再上場を果たした“スイングバイIPO”
マネーフォワード×スマートキャンプ:複数VCからの出資もあった中でのダウンラウンドM&A
経営者のリアルな葛藤 ──スタートアップM&Aで立ちはだかる4つの壁
しかし一方で、M&Aは簡単な道ではありません。スタートアップM&Aにはスタートアップならではの難しさ・複雑さもあります。以下に、実際の現場で多くの起業家が直面する悩みを紹介します。
① 買い手企業の探索と 接点の欠如
スタートアップにとって最大のハードルの一つが、「どこに、どう売ればよいか分からない」という問題です。提携や売却を検討し始めた段階では、大企業やファンドと直接的なネットワークがないことも多く、候補先との接点自体が見つからないことがあります。また、仮に接点があったとしても、相手企業の戦略ニーズや意思決定構造を把握していないがゆえに、何をどのように提案すればよいのかが分からず、機会を逃してしまうケースも少なくありません。
さらに、既存投資家にVCが入っている場合には、IPO以外の選択肢を前提とした議論を進めにくいという心理的・構造的な制約も存在します。M&Aについて相談できる相手がおらずに、スタートアップが孤立した交渉に追い込まれるケースも多く見られます。
② 条件交渉・プロセス設計の知見不足
多くのスタートアップにとって、M&Aは初めて経験する非日常的な出来事です。買い手との交渉では、情報格差や交渉力の違いによって、スタートアップ側が不利な条件を受け入れてしまうリスクがあります。例えば、最初に声をかけてきた企業と一対一で交渉を始めてしま い、比較対象がないまま進行してしまった結果、後から「もっと良い選択肢があったのでは」と後悔するパターンも見受けられます。本来であれば、複数の買い手候補を巻き込んだ入札構造や競争環境を作ることで交渉余地や評価軸を広げ、条件面での最適化を図るべきなのですが、そのプロセスを設計し、実行するためのノウハウやリソースが不足しているのが実情です。
またエージェントを介さずに経営者個人が買い手候補と直接交渉にあたることで、グループイン後のことを見据えてハードな交渉がしにくく、条件が不利になってしまうリスクも存在します。
③ 複雑な資本構成に伴う株主調整とダウンラウンドリスク
スタートアップの多くは、複数のVCやCVCなどの出資を受けており、優先株、清算権、転換条件など、資本政策に関する複雑な条件が設定されています。そのため、買い手との合意形成を進めようとしたときに、これらの株主間での意見の不一致や利益相反が障壁となり、ディールそのものが頓挫してしまうこともあります。VCファンドの満期タイミングも異なるため、株主によっては残っているキャッシュを活用した事業ピボット・再挑戦を強制し、M&Aという選択肢を許容してくれないケースすらあるのが実態で す。
また、過去のラウンドで得たバリュエーションと、現時点でのM&Aにおける評価額との乖離(いわゆる“ダウンラウンド”)が、株主の納得感や社内承認の壁として立ちはだかることもあります。特にVCから出資を受けている場合には、投資回収の観点から折り合いがつかないことも多いです。
④ 創業者利益と事業継続を両立させる仕組みの欠如
「会社を手放したいわけではない」「事業は続けたいが、創業者としてのリターンもそろそろ一定確保したい」──こうした声は多くの起業家から聞かれます。
しかし実際には、従来のM&Aスキームでは、創業者利益の実現と事業継続を同時に実現する設計がなされていないことが多く、結果的に「売却したのに創業者には何も残らない」といった本末転倒なケースも存在します。また、社員に対して発行していたストックオプションをどう扱うかという点も、経営者の悩みの種となりがちです。
Beyondgeが提供するスタートアップM&Aの新しい支援アプローチ
Beyondgeは、これらのスタートアップならではの課題に対し、「M&Aを成長戦略の一環」として再設計する視点から、戦略策定から実務支援までを一貫してサポートしています。単なるM&Aアドバイザーにとどまらず、買い手企業との戦略的なマッチングと、事業・資本の観点からの高度化を同時に実現する支援を強みとしています。
提携先・売却先の探索と提案内容の最適化
まず、売却先や提携先の探索においては、M&A仲介会社や金融機関、PEファンド、CVC、VC、買い手候補となる事業会社といった幅広いステークホルダーとの独自ネットワークを活用し、スタートアップの技術や戦略と高い親和性を持つ候補企業をリストアップします。
大企業とスタートアップのオープンイノベーションを得意とするBeyondgeでは、単なる提案先企業リストの提供ではなく、スタートアップの価値が最大限に伝わるように提案内容の具体化支援も行っており 、大企業との協業に不慣れな創業者に代わって、提案資料の作成や初期提案の壁打ちも担っています。
売却プロセスの構築と交渉支援
次に、売却プロセスの設計においては、複数の買い手候補を戦略的に巻き込むことで、入札形式を取り入れた競争環境を創出し、価格・条件両面においてスタートアップ側にとって最適な選択肢を確保します。インフォメーションメモランダム(IM)と呼ばれる概要資料やプロセスレターの作成、デューデリジェンスに向けた開示資料の整備、候補企業ごとのコミュニケーション戦略の策定など、戦略立案から実行フェーズに至るまで、実務を一貫してサポートします。
また、買い手企業との交渉では、スケジュール管理や利害調整、当事者間での誤解を防ぐファシリテーションを行い、全体プロセスのスムーズな推進に寄与します。
資本政策と事業計画の再構築
さらにスタートアップM&Aでは、単に事業 の魅力を伝えるだけではなく、買い手企業が将来の成長を確信できるような説得力のある事業計画の提示が不可欠です。Beyondgeでは、スタートアップにおける事業の強み・市場環境・成長戦略などを多角的に分析し、買い手企業との対話を見据えた事業計画の策定を支援します。特に、ダウンラウンドが懸念される状況では、買い手企業との共同作業を通じて、納得感のあるバリュエーション算出と説得力のある成長ストーリーの提示を重視しています。
また、実行において最大のハードルとなりやすい資本構成についても、優先株式の設計や条件調整、転換条件の見直しなど、買い手企業側からの理解を得やすいかたちへの再構築をサポートします。
Beyondgeによる支援実例──挑戦と再挑戦の伴走記録
構想力と実行力の両方を強みとして持つBeyondgeでは、様々なステージのスタートアップにおけるM&Aの支援を行ってきました。
ケース①:ベンチャーコンサルのM&Aにおける入札プロセス設計支援
ベンチャーコンサルとして事業を展開していたA社では、創業者利益の確保と更なる成長の実現に向けて大企業グループの傘下に入ってスイングバイIPOを目指すことを模索していました。
Beyondgeのメンバーは、入札方式による売却プロセス全体を設計すると共に、買い手候補企業の探索・選定、提案資料の作成、M&Aプロセスにおける交渉・コミュニケーションなどを包括的に支援しました。結果としてA社は大手事業会社のグループ入りを果たし、事業会社の豊富な顧客基盤のもと、課題であった営業パイプラインの拡充により業績を拡大することに成功しました。事業会社のグループ会社として、継続してIPOを目指しています。
ケース②:画像認識AIスタートアップの再生型M&Aの支援
AI×画像認識領域で事業を展開していたスタートアップB社はVCからの資金調達も過去に実施してきており数十億円のバリュエーションがついていました。その後、主力事業の撤退により一時はエンジニア数名規模まで縮小し、既存株主との調整も難航す る中でM&Aによる再成長を模索していました。
Beyondgeでは、スタートアップM&Aに強みを持つ子会社のM&Aキャピタルラボを有しており、本案件ではM&Aキャピタルラボと協力しながら、売却プロセス全体の設計と共に、再成長戦略に基づく事業計画の再構築、独自ネットワークを通じた100社を超える候補先の抽出、個社別の交渉戦略の策定などを支援してきました。結果的に複数の事業会社からのLOI(意向表明書)を受領し、そのうちの一社との具体的な交渉プロセスに入っています(継続支援中)。
<M&Aキャピタルラボの紹介>
M&Aは、“終わり”ではなく“もう一段の成長”へ向かうための選択肢
スタートアップM&Aは、単なる出口戦略ではなく、組織の再設計・市場の拡張・資本の再構成といった「次の成長フェーズへの入口」として捉えられる時代に入っています。
Beyondgeには、スタートアップ創業者、CFO経験者、M&Aの実務経験者、投資家など、構想力と実行力を兼ね備えた多様なプロフェッショナルが結集しています。またM&A仲介・マッチング機能を担うBeyondge子会社のM&Aキャピタルラボ、自己資本を中心とした出資・投資を行うBeyondge Capitalといった複数のファンクションが連携し、スタートアップの挑戦と再挑戦に寄り添いながら、戦略策定・交渉・資本政策・出資機能までを立体的に提供しています。
「会社を売る」ではなく、「未来を選ぶ」ためのM&A──。Beyondgeは、挑戦するスタートアップとともに、その一歩を支えていきます。
<参考>
BeyondgeによるスタートアップM&A(買い手企業向け)の解説はこちら
BeyondgeによるプログラマティックM&A(買い手企業向け)の解説はこちら
Beyondgeのサービス紹介はこちら